東京品川・武蔵小山のスポーツバイクショップ、スポーツバイク・ハイロードです。バイクフィッティング、インソール成形、イベント参加などご相談ください!

スポーツバイク・ハイロード

スポーツバイク・ハイロード
書籍紹介「High-Tech Cycling」(2)

作成2008/02/29

第4章 クランクサイクルとペダル回転数の最適化

この章は「いわゆる最適ペダル回転数」というものは結局存在しないかもしれない、という事を述べている。筆者の考えは、熟練したサイクリストは自然に自分にとって適した回転数を選んでおり、それに対して科学的なアドバイスをくわえるのは難しい、というもの。

◆ クランクサイクル中の血流の制限について
 図4.1によると、クランクを踏みおろしている場面(上死点より120度まであたり)では、筋組織によって絞られた血管が閉塞して大腿前部分の筋肉(外側広筋)に顕著な血流停滞と酸欠状態が生じ、この酸欠状態は筋肉にダメージを与える。

一般に選手達が好む回転数(80~100RPM)よりもやや低い回転数のほうが酸素消費量から測定した運動効率が高い事はすでに知られているが、高い回転数は上記の血流制限の持続時間を短くすることができ、また、高回転によりペダル踏力が減少する事によって大腿四頭筋の緊張がゆるみ血管の閉塞がゆるむかもしれないという事情もある。これらの新しい事実は選手達が実際にはやや高い回転数を好むことの説明になるかもしれない。

最適ペダル回転数を考える際には、上記の血流制限現象を考慮する必要がある。(以上、本項記述の要旨)。

◆ 特殊なクランクシステムについて

 左右のクランクが180度の角度で固定的に結合され、ペダルが真円の軌道を描くというのが現行の大多数のクランクシステムだが、これとはことなった構造のクランクについての紹介と考察がなされている。結論は出ていない。

◆ 最適ペダル回転数の検討
(1)ペダル回転数と酸素消費量:ペダリング効率について 現在までの各種研究の結果、以下のようなことがいわれている。

(A)50〜60RPMの低い回転数のほうが酸素消費量の観点からするとより高い回転数(90RPM以上)よりも効率がよい。
(B)大多数の選手は、理論的には非効率なはずのより高い回転数を好む。

しかしこれらの結論は前提条件に注意してみる必要がある。たとえば多くの研究は200W以下の出力範囲で行われており、一日のレースでの平均出力が300Wに近くなる(!)場合もあるプロレーサーにとっては必ずしも当てはまるとは限らない。
(2)ペダル回転数と乳酸生成及び除去
(3)ペダル回転数と筋肉の負担

本項結論要旨:とくに出力が高い状態においては血流の促進と筋肉負担の低減が高回転ペダリングの利点であろう。これらによって酸素消費の面での非効率が埋め合わされ、熟練した選手達が実際に高い回転数を好む事実の説明がつくかもしれない。

◆ プロレースにおける実際のペダル回転数
マスドスタートのレース(平地及び山岳)・個人TTのペダル回転数のデータと解釈が述べられている。

ここでランスアームストロングのきわめて高いペダル回転数についての考察がある。

◆ MTBにおけるペダル回転数
若干のデータの紹介と考察がある


第5章 自転車におけるバイオメカニクス:ロード及びマウンテン

この章ではペダルに測定器をつけて得られたデータの紹介と考察が扱われている。使用する機器は、ペダル上面に掛かる力・ペダル面が垂直線にたいしてなす角度・クランクの角度・クランクの回転速度などを測定することができ、ここから脚からペダルにくわえられた力の大きさと方向など、いくつかの値を算出できる。

◆測定から得られたデータの表現として、クランクの各位置に応じてペダルに掛かる力の大きさと方向を図式化した「サイクリングクロックダイアグラム」が紹介されている(図5.4)。

◆左右のペダルに掛かる力を合算して考える「ネットクランクトルク」の考え方が紹介されており、たとえば右クランクが90度の位置にあるときに左で見られるよりもトルクが小さいという場合、単に右足が弱いという可能性と左足の引き上げが下手でクランクの回転を妨げているという可能性を両方考慮しなければならないとされている(図5.5他)。

「有効な力」「有効でない力」という概念が紹介されている。クランクに掛かる力のなかでペダルを推進する方向(ペダルの円軌道の接線方向)以外の方向へ掛かる力は「有効でない力」であり、従来は乗り手のエネルギーの浪費と考えられていた。本章では、乗り手の脚に働く重力と慣性に由来する力を筋力による力発揮と分離して示すことに成功し、従来のデータに現れていた「有効でない力」はさほどエネルギーの浪費とはなっていないことを示している(図5.8)。

◆ペダリングのメカニズム
(1) ペダルを「丸く廻す」こと 前の項で重力や慣性と分離された、乗り手の筋力によってペダルへかけられる力は、「接線方向」にかなり近いものになっているが、クランク角度に応じてその強さは大きく変動する。上死点・下死点でのトルク減少を改善するためには片足ペダリングの訓練が有効で、これと同様の効果をもたらす「パワークランク」という機材が紹介されている。

(2) ペダリング技術の巧拙について ほぼすべての乗り手について、クランクが上がって行く際にそちらのペダル上にクランクの回転と逆方向のトルク(Negative Crank Torque)が掛かる事がわかっている。(訓練された)乗り手はそちらの脚を引き上げてこのマイナス効果を打ち消そうとしているのだが、ペダルの上昇速度に追いつかないためにマイナス効果が生じている。熟練した乗り手ほどNegative Crank Torqueの大きさと発生区間が少ない。またNegative Crank Torqueはペダル回転数が大きくなるほど大きくなり、一定の回転数では発揮するパワーが大きくなるほど小さくなる傾向がある。さらにスプリントやヒルクライムではマイナス効果がなくなる場合もある。

(3) エアロポジションとペダリングスタイルの変化 (サドル位置をそのままにして:本稿注)エアロハンドルによる低くて遠いハンドルポジションと背中をより平らにするポジションをとった場合、一部の選手は(パワーの低下など)パフォーマンスの変化を生じる。この場合典型的にはペダル上死点での出力が低下し、クランクが90度付近での出力が増大する、「踏み込み型」のペダリングになり、関連してペダル上昇時のNegative Crank Torqueがやや増大する(図5.9)。これらの現象の対策としては、サドルを前に出し(「サドル高さ」を維持するために同時に若干高くする)、腰の屈曲角度Hip Angle をやや開いてやるとよい。このシート位置では、ペダリングにおける各筋肉の力発揮割合が通常の場合と変化する(腿を振り下げる筋肉群hip extensorsの役割が低下し、)膝を進展させる筋肉群knee extensorsの役割が増大する)。

(4) 競技種目によるペダリング技術の違い MTB選手・ロード選手・トラックのスプリント選手のうち、もっともトルク変動の少ないペダリングを身につけているのはMTB選手、逆にもっともトルク変動の大きい「踏み込み型」ペダリングなのはスプリント選手である(図5.11)。

(5) 登坂時のペダリングの違い:ダンシング(d)とシッティング(s) 平均出力294W、平均勾配8%の設定のシミュレーター(前フォーク固定)で複数の選手を測定した結果;
○ 平地よりも回転数が下がるが、dとsとで回転数の傾向に差は見られない。
○ ペダル最大踏力および最大有効クランクトルクはdではsに比べ最大131%と激増する(全体重がペダルに乗るため?)。
○ ペダル上昇時のNegative Crank Torqueはdのときにsよりも大きくなる。
○ ペダル上面の角度はdのときにいっそう前傾する(つま先立ちに近くなる)。
○ ペダル上死点と下死点でのクランクトルクは、dではほぼ皆無となる。

◆ ペダリングにおける各筋肉の役割
脚の二関節筋biarticular musclesはペダリング動作において一見矛盾するような動作を行っている(例:ハムストリングの収縮はペダルの下降期に股関節を伸展させると同時に、その時実際には伸展しつつある膝関節を屈曲させるかのように作用する)。

 この項では、各筋肉の活動タイミングと各関節に掛かるモーメント(トルク)のデータを分析している(図5.12と5.13)。その結果、単関節筋uniariticular musclesと二関節筋biarticular musclesとはペダリング動作において全く異なる役割を果たしているという。

 詳述すると全訳になるので略すほかないが、要するに二関節筋は主な関節を屈曲させる役割の他に、他の筋肉が発生した力を(みずからが関与する)隣接する別の関節のモーメントへと移し替える(あたかもマルチリンク構造物のガイドワイヤーのように)というもうひとつの役割も果たしている。
(このガイドワイヤー効果を果たしている場面で冒頭の「一見矛盾する力発揮」がみられる)。

 またダンシング時の各関節モーメントをシッティングの場合と比較もしている。


続きを読む(第6章)

[1] - [2] - [3]



サイトマップへ

「ハイロード」ホームページトップへ

COPYRIGHT AOYAMA, HIROYASU 2008 All rights reserved.

(end of page)