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「先鋭的なバイクフィッティングシステム、RETUL」

作成2012/08/07  小訂正2012/08/09

RETUL(リツール)のバイクフィッティング資格講習に参加しました。

2012年8月1日から3日にかけて鎌倉で催された「RETUL University in Japan」に参加して、RETULのバイクフィッターの資格を取得してきました。非常にエキサイティングな経験でした!


(RETULされたハイロード青山。)


1)リツールとは

バイクフィッティングとはスポーツバイクの形を乗り手の体型や要望に合わせて調整する、場合によっては適切なバイクのサイズを決定する作業です。靴にサイズがあるように、スポーツバイクも乗り手にあっている必要があります。これを適切に判断調整してあげるのがバイクフィッティングというサービスです。

リツールとは2007年にアメリカで創始されたフィッティングシステムです。1990年代以降プルーイット博士他の研究で乗り手の動きを止めないで動かしたまま、3次元的に追尾観察する研究が盛んに行われるようになり、それを受けてバイクフィッターのトッド・カーヴァーと技術者のクリフ・シムズが協力してリツールを作り上げました。

リツールは二つのコンセプトに基づいたシステムです。その一つは「乗り手の動作を止めないで動かしたまま観察してフィッティングを行う」(ダイナミックフィット)ということです。これまでのシステムには「乗り手の各部骨格を測定し、その値から適切と思われる自転車の組立サイズを決定する」とか「自転車にまたがらせた乗り手の動作を止めて各部関節を測定観察する」というもの(スタティックフィット)でしたが、ダイナミックフィットでは実際にライダーが一定の力を出しながらどのように動いているのかを把握することができます。

もう一つは「3Dフィット」ということです。たとえばカメラの動画画像を使った観察の場合、ダイナミックフィットであっても、画像は2次元(2D)のものであってカメラからの距離データ(深度)がないため、カメラの記録面に対して傾いて動く関節の場合には実際の関節の角度と画像から観察できる角度とはズレが避けられません。このようなズレまでもなくしてより精度の高いフィッティングを目指しているのが「3Dフィット」です。

これらを実現するためリツールのシステムでは、乗り手のからだの片側8カ所に、ミリ単位で正確な位置に赤外線LED(マーカー)を設置し、その放射を専用のセンサーでとらえて各LEDの空中での位置(上下左右、前後の3次元位置)を計測します。これらのマーカーの位置関係からライダーの姿勢がどうなっているのかの情報を解析表示するのです。

またフィッティングシステム総体としてのリツールは非常に洗練されたプロセス、プロトコルを準備しており、
1)乗り手の希望(目標)や不満点(悩み)、経験などを聞き取り、
2)乗り手の体の柔軟性を医学的な手法で評価(アセスメント)し、
3)乗り手の動きを見ながら自転車のサイズを微調整してゆき、
4)最終的には乗り手の満足できる自転車の組立サイズを決定します。

また、自転車のサイズについても赤外線放射を使った測定器具(ジンツール)で正確に記録することができ、さらにこれからバイクを購入する場合にはリツールのセンターとオンラインでつながったフレームファインダーというサービスで自分の希望するサイズで組み立てることのできるバイクを探せるようになっています。まだ自分のバイクのない乗り手の場合には最新の「ムーブ」というサイジングマシンにまたがって自分にあったフィッティングを体験、調整することもできます。


(センサーユニット。2〜2.2メートルバイクから離してセットする)


(体に付けるハーネス(ワイアレス版))


(バイク形状をなぞって記録するジンツール)


(非常に使いやすいサイジングバイク、ムーブ)


2)今回のセミナーについて

このような先進的なシステムであるリツールはこれまでほとんど国内では知られていず、今回のセミナーが日本国内でリツールのフィッターを養成しようとする初のセミナーであるということでした。2008年以来リツールの存在を知っていた自分としてはアメリカに行かなくとも資格を取れる今回の機会に真っ先に飛びついたのです。

今回のセミナーは米国コロラド州ボールダーリツール本部から派遣されたアイヴァンさんと、オーストラリアのジュニアナショナルチームのコーチを兼任するニックさんの二人が講師を務めてくれ、コーディネータ兼通訳をサンメリット・伏見氏が務めてくれました。
受講者は自分を含め10名で、シルベストサイクル梅田店ですでに1000人のフィッティング経験(!)を持つという溝端氏をはじめ経験と熱意のあふれたメンバーが集まりました。在留の英国人の方2名、韓国からの参加者も2名と国際色あふれる顔ぶれでもありました。

3日間のコースはすべて英語で、最初は逐一通訳されていましたが2グループに分かれる中盤あたりになるといちいち伏見さんの通訳を得ることもできず、受講者のうち米国人で日本語堪能なJoliさんのお骨折りで簡約してもらうなど体当たりの様相でした。自分や一部メンバーは英語で内容がある程度理解できていましたが、通訳を当てにしていた方はものすごい努力だったと思います。

受講者は皆さん本当にフィッティングについて真剣に学びたい人ばかりなので講師の説明に食い入るように聞き入り、質問なども白熱して大変な熱気でした。二人の講師も受講者達の熱気に負けないエネルギーでシステムの根幹に関わるようなことまで突っ込んだ解説とハイレベルな実技を見せてくださいました。


(凄腕フィッター、アイヴァンさん。熱血漢)


(ニックさんがムーブでフィッティングする)

二日目の冒頭で自分青山を被験者にしてロードバイクのフィッティングを実演してくれたのですが、全く気づかなかった腰のねじれを左右のデータ比較から見つけ出したり、イレギュラーなサドルチルトからくる骨盤位置のずれを補正してなおかつ乗り手の好みに応じてチルトをわずかに修正するなど、実地の経験と乗り手の気持ち・満足に配慮した”大局を見る”フィッティングの実際をまざまざと見せつけられました。

セミナーの模様は、今回のコーディネーターを務めてくださったサンメリット・伏見氏のブログに掲載されているほか、近日中にシクロワイアードの記事としても掲載されるとのことです。

★伏見さんのブログ(別ウィンドウにて)
★シクロワイアード・トップページ(別ウィンドウにて)


(膝にマーカーを設置する。ミリ単位での高度な手技が必要)


(RETULされたバイクには誇らしげにシールが貼られる)


3)ハイロード青山の感想

今回自分にとってもっとも価値があったのは、これまでフィッターとして約10年のキャリアがありながら十分ではないと感じ続けていた乗り手の医学的評価(アセスメント)や、フィッティングで得られたデータを具体的に乗り手に当てはめポジションを修正する作業の”さじ加減”、といったフッティングの具体的なプロセスについて最新の方法を体得できたことでした。これらは当店で今行っているフィッティングでもすぐにそのまま活用することができます。

次に意外なほど重要だったのが、他のショップなどでフィッティングをなさっている、あるいはこれからはじめようとしている熱意と才能ある仲間と交流できたことでした。とくにヘルスケアの職歴を持ちながら大阪でフィッティングされている溝端さんには、一見なにげない会話の端々からも自分にとっては貴重な考え方やヒントをたくさんもらうことができました。今回の受講者は「日本国内で高度なバイクフィッティングを普及させることで乗り手をハッピーにする」という同志であると感じ心強いと同時に、自分もいっそうがんばっていこうと思いを新たにしました。

リツールのシステム自体についての評価はちょっと複雑です。

まず現状のリツールのシステムはきわめて先鋭的で、フィッティング業界内でいうと(本場アメリカでみても)他にライバルがいないくらい優れています。ダイナミック&3Dフィッティングのコンセプトしかり、15秒程度の動作結果を自動平均してデータのばらつきを排除する手法しかり、ジンツールやムーブ、フレームファインダーといった周辺のシステムや機材しかりです。

しかしながらフィッター経験のある自分が今回なによりすばらしいと思ったのは得られたデータの解釈方法、相場の値、解決方法などメソッドがしっかりしている点でした。またつねに乗り手の希望や不満に立ち返り”大局をみる”という解釈基準をきちんと掲げていること(このことは何度も強調されました)もすばらしいと思います。フッティングは究極的には乗り手の満足を引き出すコンサルティングだと思っているからです。
RETULの機材はいかに先鋭的であっても結局は測定器にすぎないので、それを活かして具体的にライダーの走りを変えるのはフィッターの持つ解釈能力、ノウハウ、あるいは”人間力”だと自分は思います。

細かい点についていうと、設備導入費用がかなりかさみ、ちょっとした自動車が買えてしまうくらいの金額が必要です。そうするといろいろ高望みしたくなるのが人のならいというもので、リツールのシステムの現状について「こうだったらもっと良いのに」という点がいくつかあります。

まず乗り手の体にマーカーを付ける作業はミリ単位での精度を要求される、かなり手間のかかることです。左右のズレも排除せねばなりません。また、現在のリツールのシステムでは一度に右または左の片面しか記録できず左右を比較するにはセットしたバイクを左右逆に移動して乗り手にはLEDハーネスを付け直さねばなりません。

リツールのような「人体の動きをモデル化してコンピュータに取り込み描画・評価するシステム」をモーションキャプチャーといいます。モーションキャプチャー業界はいますごい速度で進歩しており、現在は体にマーカーを付けないでも、複数のカメラからの動画像を解析して人体の動きをモデル化する「マーカーレス・モーションキャプチャー」がスタンフォード大学などで研究され、ごく一部では実用化されはじめています。

もしリツールでマーカーが不要だったら、そして前後左右上下の動作が一度にキャプチャーできたら(ブリヂストンアンカーの研究所ではこのような一気にデータをキャプチャーするシステムを稼働させています)今以上に段取りに手間がかからず、フィッティング時間の短縮(現状1〜3時間かかります)ができたり、フィッターがその分よりきめ細かい配慮をすることができたり、気づきにくい異常に気づきやすくなったりというクオリティの向上が見込めると思うのです。


(虎の子の参考資料と修了証書)


(資格取得者だけがこのロゴの使用を許諾されている)


4)まとめ

今回実際に触れてきたリツールのフィッティングシステムは、これまでの標準を遙かに超えるハイレベルのフィッティングシステムです。導入費用の問題やデータ解釈に要するフィッターの能力・資質といったハードルはあるものの、いわば医療における”大学病院”のような存在としてこれからの日本国内のスポーツバイクシーンに不可欠な存在となると思います。

(参考)
○モーションキャプチャーMoCapについては、たとえば、
http://www.organicmotion.com/solutions/openstage
http://www.0c7.co.jp/products/

○マーカーを使わない手法については
http://en.wikipedia.org/wiki/Motion_capture#Markerless

○今年の春マイクロソフトが開発した、パソコンにつなげてモーションキャプチャーできるセンサーユニット、「kinect for windows」が発売されました。これを使う画期的な運動解析システムをいま開発している人が世の中にはきっといるのではないかと思います。ぜひ自転車のフィッティングにも使えるものが世にでて欲しいと思います。

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